「思春期」という言葉に、私たちの固定概念から、苦手意識が湧き上がってくる人もいるかもしれません。
思春期は突然には、やってきません。
おぎゃ〜と産声を上げた瞬間から、人間の発達、成長に、飛び級はなくて、その連続性の中に生きていくということは、運命づけられています。
これは、みな共通。その成長過程の中に、子どものイヤイヤ期といわれるものや、思春期というものも属しています。
大人と子どもの狭間でもあるこの時期は、
身体的変化、心理的動揺を大きく伴いながら、心と身体が子どもから大人へとアップデートをしていく期間。
人工知能研究者、脳科学コメンテーターの黒川伊保子さんの講演会に参加した時に、印象的だった言葉のひとつ。
「この思春期の間に子どもの脳から、大人の脳へ変化していく。それがどれくらいの違いかというと、PCのOSをまるごとアップデートするくらいの変化が起こる」
とのことでした。
それだけの変化を、我が子が一身に受けながら、葛藤し、奮起し、不安定になりながらも、人として自立を経ていくための練習の時間という認識を、みなさまにも想像してもらえたらと思います。
思春期というものが、まずどういうものかを理解して、そこへ向けて親子の時間を積み重ねていくことが、「思春期は怖くない!」
と言えるようになり、楽しめたらいいな〜と心が軽くなるポイントかと思います。
自立に向けて必ず通るのが、思春期です。
ここで、ひとつフォーカスしたいのが、親子間の信頼関係がどれほどあるかー
乳幼児期から積み上げてきた親子の信頼貯金が、この思春期でひとつ可視化して見えてくると、私は感じています。
思春期を迎えるにあたり、親子の信頼関係の構築をしていく上で知っていてほしいこと
①子どもは依存と反抗を繰り返して、自立していく
依存というのは、「自分が望んだことを望んだ通りに受け止めてもらう」体験 =安心して甘えられること。
他人に安心して依存できる人は、自分も誰かから依存される、信頼される人間になりたいと思うようになります。
この「しっかりと甘える」ということが乳幼児期から出来ていると、
自分自身が周囲に対して心を開き、人の善意を信じ、自分も他人も信じられる人になっていくのです。
「人に、関心を持ってもらいたい」はみんながみんな持っている想いで、
人は、人との関わりの中で、優越感や劣等感、他者比較をしながら、自分を確立していきます。
自立した人間に成長していくには、依存と反抗の両方が十分に必要であるということ。これは、皆さんに理解しておいてもらいたいポイントです。
依存と反抗の相反する関係は、バランスではなく総量で決まると言われています。
依存が大きければ、その分反抗は少なくて、依存が足りなければ、反抗は大きくなる。
両方とも足りなかった子は、足りないまま大人になってしまい、その時期のその年齢を、年齢に見合う形で成長するのが難しくなるかもしれません。
子どもから思いきり依存される親になり、反抗を喜び、子どもを受け止められる親になりましょう!
依存も反抗も、受け止める私たち親側の対応は、見極めが必要なので難しいところではありますが、
反抗することで、親の愛情の揺るぎなさを確かめながら、自分を信じるというところへ向かっていけます。
安心して、甘えさせて、反抗してもらいましょう。
②自分を信じる力(自尊心と自己肯定感)と人を信じる力
自分を信じる力は、自尊心と自己肯定感から叶っていきます。
・自尊心は、自分自身を大切に思う気持ち、自分の存在を肯定的に受け止める感覚のこと。自己評価や他人からの評価に影響を受けるものの、最終的には「自分はここに存在して良いのだ」と感じられる状態。
・自己肯定感は、自分の価値を、自己で肯定的に捉える感覚。
この2つの感覚や自分の状態を、自分自身が信じられているかどうかで、信じる力が育まれているかどうかがわかります。
「わたしは、わたし」と思える感覚がある人は、自己肯定感が高いとも言えるでしょう。
ただ、成長していく中で、周りからの評価や影響を受け、この感覚は拮抗しながら、自分を知り自立に向けて歩んでいきます。
この環境は、親や他者との関わりで日々与えらえれいくものでもあります。
コミュニケーションとは、人を信じたり、理解したりするというような人間関係の深まりのあるものであり、単に会話を交わすことだけではありません。
親、家族、親戚友達と、だんだんと発展したコミュニケーションをしていくのが、人の成長にあたります。
自分を信じる力の土台となるのは、人を信じる力。
自分が信じている人から愛されている、評価されているという実感を得られると、子どもは自分を信じることができる。
子どもがいちばん信じたいと思っている人は、お父さんとお母さん。
そのお父さんとお母さんが何をしてもどんな時でも肯定してくれると思えることが、子どもの信じる力、逞しく生きる力を育んでいきます。
身近な親への信頼から、自尊心と自己肯定感が育まれ、自分を信じる力となる。その力が、他者への信頼の活力となっていきます。
親への信頼がないのに、お友達や、学校の先生など、他者に信頼を向けるのは難しいのです。
このことは、覚えていてほしいことのひとつです。
「親が学校の先生や、お友達のことを悪く言わない方がいい」というのも、こういう信頼の部分に深く繋がってくると思います。
③子どもの話を聞き、対話をしよう
子どもの話を聞くと言っても、
何も考えずに過ごしていると、日常の風景の中のひとつに溶け込むように、子どもとの会話は流れていきがちです。
子どもが親に質問をする時に、子どもが求めているのは、《回答》ではなく《応答》であると言われています。
《応答》とは、感想を伝え合うこと。
子どもたちは、親からの正しい綺麗な回答を求めているのではなく、親自身の等身大の言葉を欲していると言われています。
子どもからの問いに、しっかり答えないとと、力みがちになりますが、
子どもは、《自分が今思ったこと》が大切で、
その今をしっかり受け止め、今の会話の中で思ったこと、感じたことを話し合うのです。
相手が投げかけた言葉をきっかけに、頭や心の中で、どんな言葉や思いが生まれたのかを見せ合う。
ゲームや動画コンテンツにはない生身の人間の面白さや、リアルな経験というものは、ここにある!ということを、
親子の日々の会話の中で、ぜひ楽しんでほしいと思っています。
このような仕事をしていると、子どもへの適切な声がけは、どのようなものか?と聞かれることも多いですが、
それは、その瞬間を子どもと共有しているお母さん、お父さんが感じる言葉、その時湧き上がった想いで
日常の親子の会話を彩ってほしいと感じています。
「正解の声がけ」というものは存在しません。
ときには、「ばかやろーこんにゃろー!」が正しい時もあれば、引っ叩くことが正しくなることもあると私は思っています。(理不尽なケースの話ではありませんよ。笑)
現代人の多くは、正しさを求めがちです。
親だからと力まず、ぜひ子どもとの対話を楽しんでもらえたらと思います。親も一人の人間で、聖人君子ではないということ、
腹も立てるし、悲しければ泣くし、下手すると子どもたちよりも脆い時もある、そんな人間なんだということを、
日々の日常で見せていくことで、「親という責任の鎧のかたまりを脱いでいく」
そんなことも、子どもたちとの対話の中では、すごく大切かなと私は思っています。
最後に
「親を信頼できない子は、不登校になりやすい」と、佐々木正美先生の著書『思春期に向けて、いちばん大切なこと』に記載がありました。また、「親とのコミュニケーションが取れている子で、不登校の子は、ほとんど見たことがない」とも。
ひきこもりや不登校の背景には、必ず「コミュニケーション能力の不足」があると言われているらしいのです。
「周りとのコミュニケーションが取れなくなった」
「なんとなく学校へ行けない」
これが不登校の原因として、上位に上がってきていて、理由がない不登校というのも増えてきているそうです。
不登校が、決してダメと言っているわけではありません。でも、この時期の子ども達の成長に欠かせない環境の一つに、「同年代の子どもたちとの関わり」があります。これは、心理発達学的にも、揺るぎない事実でもあります。
- 人と生き生きと交わる感性は、幼児期に自分の親との間でつけていくことで育っていくもの
- 親を信頼することができると、子どもは他者のことも信頼できるようになる
この辺りをしっかりと心に刻んで、子どもと、深い部分でのコミュニケーションを臆することなくしてほしいと思います。
近年、親と仲良くは過ごせるけど、大事なこと、本音を親に言えないという子も増えてきているそう。
その一つの要因に「子どもに嫌われたくない」という想いからの「子どもの顔を伺いすぎる親たち」があるのではないかなと私は思っています。
コミュニケーションの深層部というのは、簡単ではないことがわかりますね。親が本気で本音でぶつかることで、見えてくることもたくさんあるということです。
ただ、もし今お子様との関係性に不安を感じている人がいたとしても、
《コミュニケーションが親との関わりの中から生まれる》のですから、これからの関わりの中で、家庭からいくらでも変えていくことは可能ということです。
臆病にならず、自分の子どもたちと、会話を、対話をしていきましょう。遅いということはありません。
参考図書:佐々木正美 『思春期に向けて、いちばん大切なことー抱きしめよう我が子の全部』 大和出版 2023年
:矢萩邦彦 『子どもが学びたくなる育て方 話す、探す、やってみるで生きる力を伸ばす』 ダイヤモンド社 2022年


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