学童期への橋渡しとしての乳児期後期
一見、コラムの順序が前後しているように思われるかもしれません。 ですが、第1回目のコラム「エリクソンの発達心理段階《学童期7歳~12歳》の紐解き」でも触れたように、この学童期の理解には、その直前の発達段階である《乳児期後期》の理解が欠かせません。
今回はその乳児期後期(4歳~7歳)について、改めて丁寧に読み解き、学童期とのつながりを意識しながら紐解いていきます。
年齢的にはお子さんが少し前に通過した段階かもしれませんが、子育てにおいて復習や見直しはとても大切です。 まだ消化しきれていない部分があれば、今からでもフォローできるのが育児の柔軟さでもあります。
乳児期後期の心理的課題と危機
この時期に子どもが獲得していくべき心理的課題は「自発性(積極性)」です。
エリクソン理論を読み解くうえでの構造を、ここでも整理しておきましょう。
〈エリクソンの発達心理段階の構造〉
【その時期】に【心理的課題】を得るために、【危機】という壁に向き合う。さまざまな環境下でその【危機】に挑み、結果として【心理的課題】が育まれる。
この「危機」という言葉が少し厄介に感じるかもしれませんが、それは子どもが日常の中で直面しがちな「心の壁」や「社会的な困難」と捉えるとイメージしやすくなるでしょう。
乳児期後期の危機とは「罪悪感」。 つまり、子どもが「これをやってみたい」と思って行動しようとしたときに、それを止められたり否定されたりすることで芽生える後ろめたさや、自信の喪失の感情です。
この罪悪感の背景には、多くの場合、親側の「不安」や「心配」があります。 先回りして失敗を防ごうとしたり、厳しく指導したりすることで、 「やってはいけなかったのかな」「私が悪かったのかな」という感情が子どもに積み重なっていくのです。
ゼロにできないからこそ、向き合う意味
とはいえ、罪悪感をゼロにする必要はありません。 エリクソンの理論では、常に心理的課題と危機は拮抗しています。 どちらかが完全に消えてしまうのではなく、葛藤の中からバランスを見つけていくことこそが、本質なのです。
つまり、罪悪感を完全になくすのではなく、必要以上に強くしすぎない。 行き過ぎた制止や否定が、自発性を抑え込んでしまわないように。
現代の子育てでは、この「罪悪感との向き合い方」がとても大きなテーマになると感じています。 社会全体が不安を抱え、育児に対するプレッシャーも高まっている中で、 親自身が心の余白を持てない場面も増えているからです。
母としての私の実体験
これは、私自身もまさに通ってきた道です。
「わかってはいるけれど、感情が追いつかない」。
子どもの挑戦に対して、思わず口を出してしまったり、先回りして守ってしまったり。 でも、そんな中でも、子どもがその先回りをも振り切って大失敗し、 その失敗を一緒に受け止めて、どう乗り越えるかを共に体験したとき、 「これだ」と肚落ちしたのです。
私自身、「失敗は成功のもと」なんて綺麗事だと思っていました。 でも、失敗からしか得られない学びがある。 そして、その学びが子どもの中に根を張っていく。 そう実感したとき、自分の中の子育て観が変わったように思います。
子どもによって違う、「ちょうどよさ」
ただし、失敗を「経験させればいい」というわけでもありません。 子どもの性格や特性によって、「ちょうどよい」リスクや自由度は本当に違うのです。
あまりに放任すれば、命に関わるような事故が起きるかもしれませんし、 逆に何かあるたびに「ダメ!」「危ない!」と制止すれば、自発性は萎縮してしまいます。
私自身、長男と次男の子育てでそれを痛感しました。
長男にはちょうどよかった関わり方が、次男には過干渉だったのかもしれない。
次男にとっては、もっと自由に試せる場面が必要だったのかも。 そんな風に振り返ることもあります。
でも、その失敗を活かして、三男の子育てにはまた新しいアプローチができた。 育児とは、こうやって学びが循環していくものだと感じています。
とはいえ、今でも「次男には、もっとこうすればよかったのかな」と、 自問自答する日があるのも事実です。
自発性のタネはどこにでもある
自発性の根っこにあるのは、「興味」や「好奇心」。
これは特別なイベントや立派な環境でなくても育まれるものです。
たとえば、「これなに?」「なんで?」という日常の問いかけや、
何気ない行動の中にこそ、 自発性のタネはあります。
だからこそ、大人の側がそれに気づき、面白がって見守る姿勢が大切。
「やってみたい」を止める前に、 「どうなるんだろうね」と一緒に見守ること。
その積み重ねが、罪悪感を和らげ、自発性を育てていくのだと思います。
あきらめずにやっていくこと
乳児期後期(4歳~7歳)は、自発性の芽がぐんぐん育つ大切な時期です。この時期に必要なのは、親の「信じて見守る力」と「ほどよいブレーキ」。そしてなにより、「一緒に失敗して、一緒に考える」姿勢です。
私たちは完璧な親ではなく、毎日を試行錯誤しながら生きている仲間です。
子どもの発達段階を知ることは、親としての自分を責める材料ではなく、 「これからどう関わっていこうか」のヒントになります。
この乳児期後期を丁寧に振り返ることで、 学童期へのスムーズな橋渡しがきっとできるはずです。
私はまだ、現在中3の次男に対しても諦めていません。
罪悪感と向き合いながら、自発性のタネを育てていく時間を、 どうか恐れず、楽しんでみてくださいね。


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